朝のリレー 谷川 俊太郎 作

   カムチャッカの若者が
   きりんの夢を見ているとき
   メキシコの娘は
   朝もやの中でバスを待っている
   ニューヨークの少女が
   ほほえみながら寝がえりをうつとき
   ローマの少年は
   柱頭を染める朝陽にウインクする
   この地球では
   いつもどこかで朝がはじまっている

   ぼくらは朝をリレーするのだ
   経度から経度へと
   そうしていわば交替で地球を守る

   眠る前のひととき耳をすますと
   どこか遠くで目覚時計のベルが鳴ってる
   それはあなたの送った朝を
   誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ

   http://www.youtube.com/watch?v=zdamOuoDuDc


   見えない糸のように旋律が縫い合わせていくのが
   この世とあの世というものだろうか
   ここがどこなのかもう分からない
   いつか痛みが薄れて寂しさだけが残っている
   ここからどこへ行けるのか行けないのか
   音楽を頼りに歩いて行くしかない

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